2016年04月30日

鞄の中。

自宅から駅まで向う道順が2パターンある。
家を出てすぐに左折するか、しばらくまっすぐに歩いて左折するかの差なのだが、
その日の気分で道順を変えるようにしている。

今日。
家を出た時すぐに左折して駅まで向う道順で行こうと決めた。
鞄の中には手帳とメモ用紙とペン、ハンカチ、煙草、財布、携帯電話、家の鍵、あとはなにかごちゃごちゃしたもの等が入っている。いつも無駄に重い。
家を出て数分後電車に乗る、そのとき私は本を読んでいた。
数分前までは鞄の中になかった文庫本。
道順を決めて歩いている途中、民家の玄関前に
「ご自由にどうぞ、いい出会いになりますように」と書かれたカード、ダンボール箱の中に大量の本があった。
足を止め数秒、背表紙を確認しながら無意識で手にとった2冊。
堀辰雄「幼年時代・晩夏」阿刀田高「仮面の女」
本を買う気分でもなく、読む気分でもなかった。
なかったのに、つい、堀辰雄著の本を開いて読みすすめていた。
9ページ目まで読んだところで、ページ最後の文章に掴まってしまい、何度も読み返していた。
何度も読み返すうちにいつの間にか独り言のようにブツブツと口にしていた。
何故、その文章に掴まったのか自分でもわからなかったが、忘れたくないと思い、鞄をまさぐってメモ用紙を取り出し、その文章を殴り書きした。電車は揺れているからうまく書けない。後で読み返そうと思ってもきっと読み返せないくらい乱筆ではあるがそれでも書きとめ、そのメモを鞄の中に入れた。

目的地に着いて鞄を開けると、先ほどのメモ用紙と別に鞄の底から同じようなメモ用紙が数枚でてきた。
自分でも忘れていた、くしゃくしゃになったそれを開いてみると同じように乱筆な走り書きのメモだった。
内容はたいしたことではなかったが、今日書いたメモ用紙と鞄の底にあったメモ用紙に殴り書きした言葉を全てあわせるとひとつの“答え”になってた。
それは自分が今年に入ってずっと考えていることへの答えだった。
以前、知人に鞄の中身を見られ「見汐さんの鞄、ゴミ箱みたい……」と言われショックを受け、
それ以来整理整頓するように心がけていたのだが、いつもは自己嫌悪にしかならない自分の無精さを今日は肯定してあげたい。
家を出て、すぐに左折したことも、玄関先にあった主のカードにも、無意識に選んだ文庫本にも、
掴まった文章にも、乱筆に綴ったメモ用紙も、全部が意味のあることのように思え気分がよくなる。
頭の中も鞄の中も、煩悩でいっぱいになった頃、地味ながら思いもよらないことがおこる。



posted by 見汐麻衣 at 16:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする