2018年11月14日

些細なこと2。


◾️贔屓にしている定食屋が家の近所に3軒程あり、ローテーションで通っている。
そのうち1軒の店でひと月ほど前からよく会う盲目の男性がいる。サラリーマンだろうか、いつも背広姿だ。
ひとりで店に来て、店主も「あら、いらっしゃい」と、あたりまえの習慣のようにその男性の腕をひき、椅子まで誘導し、メニューを読み上げる。男性は定食が運ばれてくると黙々と食べて、帰り際必ず店主の奥さんと談笑し、帰っていく。

ある日。
ランチも終わる時間帯に急いで入ったイタリア料理の店で食事をしていると、「こちらへどうそ」と案内され私の隣に座った男性が定食屋でよく会う盲目のひとだった。ホールスタッフの男性は、定食屋の主人と同様にメニューを読み上げ、注文を受けていた。
なんてことはない昼時によく会う人というだけなのだが、この日は違った。
彼のテーブルに出されたスープが手元より少し遠くに置かれ、手をゆっくり這わせてカップを探しているがなかなか掴めないでいたので、私は彼の手を掴み「ここです」とスープの入ったカップの取手に手をやった。
少し驚かれたようだったが「ありがとうございます」とひとこと。そして「あの、違ったらすいません。いつも〇〇の定食屋で会ってる方ですか?」と言われた。私は何故か一瞬驚いてしまい言葉に詰まって黙ってしまった。「きっと、そうですね、よく会いますね」と言われ「あの...なんでわかるんですか?」と不躾な質問を投げていた。
「声です」「...声?」「はい」
ひとりで行く定食屋で誰かと話すことなどもちろんない。いつ私の声を聞いたのかと思っていると
「ごちそうさまでした〜って、大きな声でいつも聞こえます。あの声と同じです」
そういえば、確かに言っている。会計を済ませたあと特に意識することなく言っているなと考えていたら
「なんか、すいません...」とひとこと。
「なんであやまるんですか?」「いや、気持ち悪かったかなと思いまして」「そんなことないです、あの、どうぞ、ゆっくり食べてください。私はお先に失礼します」「あぁ、ありがとうございました」
会計をすませて「ご...」と言いかけ、小さい声で「ごちそうさまです」と言い直し店を出た。

しばらくして、定食屋で彼を見かけた。
「こんにちは」と言うと「あぁ!先日はありがとうございました」から始まり、少しだけ話をした。
「通い慣れた店でも、最初というのはあるわけで、その時は緊張しませんか?」と言うと彼は笑っていた。
「面白いこと聞きますね。...でも、どの店でも最初は家族と来ることが多いから。ひとりでということはないんです。家族と一緒にきて、食事をしてここならひとりでもこれるなって思った店に通っています」「ここはひとりじゃ無理だなってお店もあるってことですか?」「はい」「どんな理由で?」「声ですね」「...声?」「そう、声。声っていうのはよく聞くとその人の全てが聞こえてきます。お店の主人と家族が話していて、その声が気持ちいいなと思うと、通っています」「そんなこと、あるんですね」「そんなことあるんですよ笑」「あの、私の声はどうですか?」「え?」「え?」「え?」「あぁ、えーっと、私の声は気持ちいいですか?」「明朗活発という感じがします笑」「明朗活発!」「話す仕事などやっいるんですか?」「違います。あぁでも、まぁ、近いようなことはやっています」「そうですか。声がお若いから声を使う仕事なのかと」「年は若くないです」「それは、聞いていません笑」

よく笑う方で、話してみるととても楽しかった。
それ以降定食屋で彼を見かけたら談笑しているのだが、何処に住んでいるのかも、なんの仕事をしているのかも、名前も年も知らない。相手も私の名前、仕事も年も聞いてこない。
ただ「定食屋で会うひと」それだけだ。
ほんの2,30分、会えた時に世間話をすることがとても楽しい。そして、なによりも贅沢な時間だなと思う。

彼と話すようになってからは会計時、
この頃はどの店でも意識して「ごちそうさまでした〜!」と大きな声で言うようにしている。

posted by 見汐麻衣 at 14:55| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年11月12日

些細なこと。


◾️荻窪にある某レコ屋、週2は覗くようにしている。
今週は200円コーナーで見つけた八神純子と、ユーミンの『ALBUM』(1977)を購入。
見つけた時「おっ!」と声を出してしまった。本人が「自分のキャリアの中で汚点」と言っているのを何かで目にして、これは欲しい...と探していたが中々出会えなかったので嬉しい。しかも安かった。荒井由実時代と松任谷由実時代のシングル盤のベスト的なものなのですが、全くやる気のないジャケが今手にするとダサすぎて潔く、いい。はなから売る気のない使用というか。多分、本人は本当に出したくなかったのだろうという思いがひしひしと伝わってくる。
しかし、曲に罪はない。『遠い旅路』『潮風にちぎれて』はとてもいい。80年代に入ってブイブイいわせる前のユーミンの曲がとかく好きなのですが(地味で渋い曲が多いから)この、少し淀みを感じ、(自分が何をうたうべきか作ろうとしているのか)考え模索しながら作っているように感じて好きです。ここを経てブイブイいわせた曲達に繋がるのかと思うと余計に。ラフに聴こえて実は凄く凝っているって、簡単なようで難しい。


◾️先週末、大阪でライブがあり、移動中にラジオをずっと聴いていた。
某番組のゲストに矢野顕子が出演していて話の中で「たかが歌詞じゃな〜い?別に、私はね、(他の人にうたってもらうとき、その人が歌いにくいのなら)歌詞を書き換えてもらってもぜ〜んぜん平気」と言っていて少しだけ驚いた。例えば歌詞の中の接続詞を変える("だけど" を "だけども" とか)くらいならうたう人の拍のとりかたや、うたいまわしによるところもあるだろうしまぁわからんでもないとおもったが、矢野さんの言ってるのはそういう部分ではなく本当に「歌詞を変えていい」というようなニュアンスで話していたので驚いた。例えば「ごはんができたよって母さんの〜」を「お餅をついたよって母さんの〜」になると、意味、全然変わるんじゃないか...と思ったが、そんなことで大きく意味が変わるようなヤワな歌詞を書いていないってことにも後で気づいた。たかが歌詞と言いながら、自分の作品に対する強固な自信を感じました。二、三日遅れて唸る。


◾️「歩いていて、異様に靴紐が解ける日」というのがある。
私の歩き方がいつもと違うのか、紐の摩擦なのか知らないが、一見「意味のないこと」にも意味があるように思えてしまうことがある。
実際、意味などない。ただ、靴紐が解けやすいという事実だけがあり、解けないように結べばいいだけのことなのだが、意味を持たせようとするといくつか心当たりが出てくるから不思議だ。今向かっている場所や待っている人と会うことにあまり気乗りがしない時によくあるな...など。そうすると靴紐の「解け」によって、立ち止まる時に「もう一度よく考えたまえ」と何かが私に言っているのではないか...などと大袈裟でドラマチックな考えに行き着こうとするのを自ら拒んだあと、ふと思うのは靴紐が解けやすいという事象に、自分の「心構え」を見て取れることもあるのだということだったりする。疑問を持つこともしない毎日の習慣や所作の中に、心の軋みは真っ先にでてくるものなのだろうと思っている。普段の自分の無意識の行動から、わたしが気づいていないことを教えてもらうことがある。
posted by 見汐麻衣 at 20:01| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月28日

寿司酩酊雑記


酔っています。

今夜の東高円寺のU.F.O CLUB、頭士奈生樹 with 渚にてのライブへ行きました。
13年ぶりのアルバム「W」発売記念ライブ。

今月、個人的に反省すべきことが色々あり、「あぁ、もう全部やめてしまいたい」なんてことを真面目に、真剣に考えたり、しかし
現実には矛盾の多い自分の行動が常、まぁ何が言いたいのかというと「ツライです...」ということですが、そんなことは他人の知ったこっちゃない。自業自得。

今夜のライブがとても素晴らしく、あまりに素晴らしく、素晴らしいしか言ってませんね。
......行ってよかった。具体的なことを書きたいのですが、酔っているのですいません...。でも、何か書き留めておきたかったのです。

また改めて書こうと思います。
明日の下北沢leteのソロワンマンは、今できること正直にやろうと思います。お待ちしております。
乱文御免。



posted by 見汐麻衣 at 01:03| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月16日

ニュース。


◾️明日、10/17(水)『ひきがたり5~Sing With A Piano~』が発売になります!
2009年から自主製作(CD-R)で始めた『ひきがたり』シリーズ。
今回は正式プレスでのリリースになります。

始まりは『バンド(当時活動していた埋火)では収録できなかった曲を含めて作品を作る』というのがきっかけだった「ひきがたり」シリーズ。
2009年「ひきがたり1」2010年「2」2013年、牧野琢磨(NRQ/湯浅湾)に作曲/ギターを依頼した楽曲も含む「3」2016年に発売した「ひきがたり4」からギターでの弾き語りではなく、ピアノに野田薫を迎え歌とピアノの形態で発売しました。(1〜3は完売です。4は若干在庫あり)


『歌をうたう』ということを改めて考えるきっかけになった高円寺円盤での定例企画「うたう見汐麻衣」(隔月最終木曜日開催)を2017年から始めたのですが、この企画で色々な歌、歌手の作品に触れながら〈歌をうたう〉という事の楽しさや難しさを改めて感じる中で「ひきがたり5」を作りました。埋火〜MANNERS〜そして見汐麻衣名義でのソロ作品の系譜とは異なり、シンプルに「歌」に焦点を当てた作品になっております。
この作品で初めて興味を持って頂ける方にも、以前からの作品を知ってくれている皆様にも、手にとって頂きたい一枚となりました。

201809見汐ひきがたり5_ジャケ.jpg

















見汐麻衣/ひきがたり5 〜Sing With A Piano〜
M-001 2018年10月17日発売 定価¥1,500(税込)
JASRAC R-1881094

【TRACK LIST】
1.エンドロール
2.その夜
3.街の灯り
4.やさしいひと
5.君をのせて
6.1979
7.だから私と

M-3 作詞:阿久悠/作曲:浜圭介 M-4 作曲:牧野琢磨(NRQ) M-5 作詞:岩谷時子/作曲:宮川泰 他全て作詞/曲:見汐麻衣

歌:見汐麻衣 ピアノ:野田薫 
ピアノ編曲:野田薫・見汐麻衣 (M-3除く)
録音/ミックス/マスタリング 林谷英昭
デザイン 山崎なし 
写真 見汐麻衣

今回、リリースするにあたり、自身のレーベルMISHIO Recordsを作りました。

ミシオレコードロゴ01.jpg

















初回ご購入頂いた皆様にこのステッカー付いてきます。どうぞお見知り置きを...。
ご購入頂ける店舗(通信販売もあり)は下記のサイトからご確認ください!

取り扱い店舗一覧



【ひきがたり5~Sing With A Piano~】に寄せて。コメントを頂きました。

関係ない話から始めます。
米軍基地のある街で育った。そこには昔、外人バー街という、米軍兵相手にバーABCみたいな適当な名前の小さなバーがぎゅうぎゅうとひしめき合って立ってる汚い路地があった。(今もあるみたいだけど随分綺麗になってる。)もちろん子供の頃の話だから夜にそこに行ったことはない。でも朝、たまに前を通った時に見る、路地の奥から射す陽の光を見るのは好きだった。高いフェンスの向こうの広い芝生の中にある米軍宿舎や、基地の中で食べたとんでもなく美味かったホットドッグよりもアメリカだった。そこの汚い路地の空気に、混じり合った二つの国や酒の匂いに紛れた多くの出会いや別れの残り香みたいなものを子供心に感じ取っていたのかもしれない。路地のこっち側には買い物かごを下げたおばさんがいるようなごく普通の日本の日常も見える。アメリカも日本もごちゃごちゃのまま溶け合うこともない場所に射す陽の光が好きだったのかもしれない。

見汐の歌はそういう出会いや別れの複雑な感情と、二つの国の夜の時間がなんの解決も結論もないまま普通の生活と同居してる、そんな場所に射す光みたいなものだ。何かを解決することで抜け落ちてしまういろんなものに射す光だ。
陰も伴う陽の光のような歌。あの外人バー街の路地の景色を想い出してしまった。

石橋正二郎(F.M.N. Sound Factory )




歌と向き合ってきた経験を成果として提示したいという自信のあらわれであろう自主レーベルの立ち上げであったり、シリーズ初の正規プレスでの販売だったりするでしょうし、それを裏付ける研究や修行があったことと思います。
ですが、この、コブシにもウィスパーにも逃げない丁寧なノンヴィブラート歌唱には押し付けがましさはなくて、レコ屋の100円コーナーで気まぐれにつまんだ、忘れられたかつての中堅女優がなんの因果か一枚吹き込んだ謎のライヴ盤がこんなだったら最高だよなあ、というような陳腐な妄想も引き受ける度量があります。選び抜かれたカヴァー曲も素晴らしいですが、それらと自作曲を聴き比べることで「やっぱり見汐麻衣の歌は見汐麻衣の曲で活きるなあ!」という当たり前の(そして大事な)ことに思い至らせるシンガー・ソングライターとしての強みも実感できました。

工藤大(レコード・コレクターズ編集部)





優しい歌声と静寂に、あの喧噪や逡巡やもうここにはいない人たちの横顔がいつのまにか思い出になっていたことに気づく。

九龍ジョー(ライター)





見汐さんはギターで弾き語る人だと思っていたので、全編ピアノと声と知ってちょっと驚いた。ピアノは図体の大きい楽器で残響も長く深い。その残響に、見汐さんは居心地のいい蒲団みたいに乗っかっていたかと思うと、歌声をさっと切り上げる。まるでハーフペダルを踏んだみたいに、見汐さんの声があるピアノと見汐さんの声が途絶えたピアノが分かたれる。そして野田薫のピアノ自体もまた、残された残響を思いがけないところですいと切断する。スリリングなやりとり。それにしても、堺正章の「街の灯り」が、まさかこんな声とピアノの明滅になるなんて。   

細馬宏通




昨日(10/15)発売の『レコードコレクターズ11月号』現役アーティストの音楽生活を柴崎祐二氏がインタビューする連載''MUSIC GOES ON"〜最新音楽生活考〜2回目のゲストとしてインタビュー記事が掲載されております。
レココレは20年以上、定期購読している唯一の音楽雑誌で、まさか自分がレココレに載ることなど一生ないと思っていたので、本当に嬉しいです。巻頭カラー6ページ。イラスト 我喜屋位瑳務氏、写真撮影 栗原論氏。

レココレ.jpg


















長くなりましたが、どちらも手にとって欲しい!です。

















posted by 見汐麻衣 at 19:32| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする